「自分ごと」として考えさせる情報モラル教育

掲載日: 2018年6月9日

静岡大学
教育学部準教授

塩田真吾

 これまで、学校における情報モラル教育というと、通信事業者や専門家を招いての講演会という形式が多く、その内容は「こんなトラブルがありますよ」「こんなトラブルに気をつけてくださいね」というトラブル事例の紹介と注意喚起が中心でした。しかし、こうしたトラブル事例を紹介する講演会では、「トラブルがあるのはわかるけど、そんなの自分には関係ないし」と子どもたちが感じてしまい、当事者としての自覚を持ちにくいという課題がありました。
 例えば、ネットでの炎上事件を紹介し、「不適切な写真をアップしないようにしよう」と指導しても、子どもたちは「はい、不適切な写真はアップしません」と答えるでしょう。ここでの問題は、「不適切な写真」とは何かが、指導者と子どもたちの間でズレていることにあります。同様に、「スマホに依存する人が増えているから、夜遅くまで使いすぎないようにしよう」、「ネットでのいじめが増えているから、SNSで悪口を言ったり、嫌なことをしないようにしよう」と指導しても、「夜遅く」「使いすぎ」「悪口」「嫌なこと」などは曖昧なことばっであり、大人と子ども、または子ども同士でも認識に「ズレ」が起きやすくなります。自分は夜遅くないつもりでも相手は夜遅いと思ってしまう、自分は悪口とは思っていなくても相手は悪口と思ってしまう、という「ズレ」を考えさせ、そこを議論させる必要があります。

どうすれば、「自分のこと」として考えられるか

 私の研究室では、二○十四年度からLINE株式会社と共同研究を行い、「トラブル事例を伝える」という情報モラルではなく、子どもたちに「もしかしたら、私もトラブルを起こしちゃうかも・・・」という「当事者としての自覚」を促すことを目的とした教材の開発を行っています。
 教材では、指導の曖昧さを扱い、「嫌なことってなんだろう」「不適切な写真ってなんだろう」ということをカード型の教材を使って、他者と比較しながら考えさせます。例えば、「自分とみんなの嫌なこと」というワークでは、①すぐに返信がない②なかなか会話が終わらない③知らないところで自分の話題が出ている④話をしている時にケータイ・スマホを触っている⑤自分が一緒に写っている写真を公開されるという五つを、嫌な順に並び替えて、グループで共有し、議論します。実際の授業では、「私は自分が一緒に写っている写真を公開されることは全然平気だったけど、一番嫌だって思う人もいるんだ!もしかしたら、今までやっちゃってたかも・・・」という声を聞くことができます。

 私の研究室では、こうした指導方法を「カード分類比較法」と呼び、自分と他者との感じ方のズレをカード教材を通して考えさせ、議論させることにより、子どもたちにトラブルを自分のこととして自覚させることができると考えています。「不適切な写真とは何か」「使いすぎとはどのような状態か」をカード分類比較法を用いて他者と比較、議論することにより、自分も不適切な写真を公開していないか、自分も使いすぎていないかという自覚を促すことが期待できます。
 さらに二○十六年度は、「当事者としての自覚」の次のステップとして、自らを予想し、それらを回避する力を育てる「リスクの見積もり」をテーマとした教材を開発しています。

トラブル事例の紹介から「考え議論する」へ

 ネット上のコミュニケーションのトラブルでは、「こうすればすぐに解決できる」といった指導は難しいのが現状です。「トラブル事例の紹介」「危険性の啓発」という安易な指導法ではなく、どうしたら子どもたちに門っ台を自分のこととして自覚させるかという視点で、「考え、議論する情報モラル」の指導方法を今後も研究していきたいと思います。
 なお、ここで紹介した教材は、以下よりダウンロードすることができます。
 https://line.me/safety/ja/workshop.html