小学校英語の導入とその方向性

掲載日: 2018年6月9日

静岡大学
教育学部教授

内田 恵

 グローバル化がますます進む今日において、使える英語の学習が話題になっています。そこで教科となる小学校における英語学習の展望と、私たちが試みようとする取り組みについて、述べてみたいと思います。

「話せる英語」への方向転換

 「読む、書く、聞く、話す」の英語四技能のうち、過去に「話す」以外の要素が重要視されたという事実は、その時代に合致したものでした。すなわち、政界ンお先進的地域からの新しい知識導入や知見拡大をするためのツール(道具)として英語が使われたのです。私たちは英語を通して「考え創造する力」を無意識のうちに養成しました。
 「話す」技術を磨くことが継承されるのでしょうか。新指導要領では「話すこと」という目標の中に「やりとり」と「発表」という項目設定をしたことが特筆されます。ここに、外国語活動や英語教科化は、実は総合的な思考力や判断力の伸長へ貢献できる土台作りをも担う意図が潜在しているように思われます。

小学校にとっての英語とは?

 円滑に英語を習得させるのには、学習開始年齢の問題があります。外国語活動低年齢化の利点は、(教わる行為を少なめに)自然に英語を習得するのに理想的な年齢に、より近づいた点です。母語である日本語習得と同じとまではいかないものの「聞くことを手始めに、めんどうなことは避けて英語に慣れること」が最重要になります。
 ところが母語は生活言語ですが、日本では英語を日常使用する状況は稀です。そこにかえって「好き嫌いを言う余裕」が生じるわけです。三、四年生が英語に出会う時に、「嫌いを作らない」で「自然に」英語でなじむ生徒が増えることを期待します。
 工夫例として、「すきな物(人)を英語で言ってみよう」という活動は、be動詞使用だけでは楽しく幅のある会話は成立しにくいので、likeのような一般動詞も活用します。「外国語で活動する」動機づけには、慣れれば定着する難しめの英単語は積極的に教えるべきだといえるでしょう。
 次に「高学年における英語教科化」について考えてみます。過去数年間はこの時期に「言語としての英語」を意識して学習することによる思考力の養成に配慮しています。議論の余地はありますが、中学校における指導項目の一部を移行させるという試みが、一貫性のある安定的な方策であると思われます。
 一例をあげてみます。英語の代名詞は、形態変化(格変化)が起こります。英語の母語話者は自然な習得が可能ですから、代名詞の格変化を無意識に習得します。ところが外国語としての英語学習には、効率的な順序立てが必要となります。中学校の英語も視野に入れた「基本→拡張」への道筋を明確にしていくわけです。英語の楽しさを味わいつつ、体系的に学ぶことが新知識獲得への興味の増大につながってほしいものです。
 また、「やり取り」を意識した指導には、内容を問うための疑問文を早く指導することが望まれます。この型の疑問文は応用範囲が広く、授業の幅と深みが出ます。反復練習と自由な応答学習を実践することが、「英語で発言・発表する」行動の基礎となります。

連携教育をめざして

 最後に、「小学校英語教材の開発」と「英語に強い小学校教育育成」についての取り組みを紹介します。
 昨年度より附属静岡小学校において、英語教科化への準備アプローチを開始しました。附属小、附属中、教育学部(内田・矢野淳教授)が意見交換を定期的に行っています。二月と四月には、長田敬司教諭(附属中)が小学生にモデル授業を実施し、それに基づいて中学校との連携を意識した意見交換の場を築きつつあります。公立学校の先生方と意見交流を深める場を模索しながら、授業内容や授業方法に関する小中の連携的研究に加速度をつけて、教材モデルなどを提示できるまで事業を推進していくつもりです。
 また、三月には西伊豆町教育委員会と本学英語科(亘理陽一准教授)の共同プロジェクトとして、小学校低学年および中学年向けの指導計画書を作成しました。西伊豆町の教育関係者の方々に助言していただきながら、本学部の英語科学生も教材作りに参加して、小学校での英語指導法を具体的に学んでおります。

結び

 今後の英語授業は隣接学校を互いに意識した縦型の体系的英語教育に力点が置かれます。「何をどこまで教えて次の学校に生徒を進学させるか」という連携教育の土壌をさらに育まなければなりません。英語授業の小学校への進出は、社会ニーズに対応した大学までの英語教育の根幹となっていくことを期待します。

前附属静岡中学校校長
日本英文学会中部支部長