民 膏 民 脂
同窓会会長 山田 幸男(昭46年・小卒)
高村光太郎の『智恵子抄』で有名な阿武隈川と安達太良山が眺望できる
二本松城は、福島県二本松市にあります。
そこには、十六文字が刻まれた戒石銘碑が建っています。それは、
江戸中期の1740年頃、当時の藩主、丹羽高寛が藩の儒学者の進言により、
藩士の行動の指針として作らせたものです。
爾俸爾禄 民膏民脂
下民易虐 上天難欺
〈お前たちの給料は、領民の汗と脂の結晶である。お前たちは領民に感謝し、
彼等をいたわらなければならない。弱い立場の領民をしいたげれば、
必ずや天罰が下るであろう。〉
この十六文字には、このような藩主丹羽高寛の願いが込められています。
この戒石銘は、その後の二本松の藩風を作っていきました。
明治元年、鳥羽伏見の戦いで始まった戊辰戦争における二本松藩の戦い
ぶりは、武士の模範として後世にまで伝えられています。これも戒石銘の
余香かもしれません。
ところで、この二本松城の戒石銘ですが、富山県庁出納課の植込みにも
存在しているとのことです。昭和42年、当時の知事が二本松の戒石銘に
心を打たれ、職員に対して、この言葉を肝に銘じ、県民奉仕の精神に徹して
ほしいとの願いから、建碑したそうです。
さて、マスコミは、いわゆる「政治と金」の問題を連日のように伝え、
政治への不信が渦巻いています。
こうした状況下、国は10の基金を無駄として、廃止の方向で調整に入った
ことを明らかにしました。また、2025年大阪・関西万博については、
繰り返す費用膨張への批判もあがっています。
いずれにしても、私たちの汗と脂の結晶である税金の使途については
よくよく吟味し、適正に使ってほしく思うのです。私たちが人間らしく
暮らすためには、政治ほど支配力を行使するものはないのですから。
私ごとで恐縮ですが、数十年「公」の仕事に携わった身として、自戒を
込め、行動の規範とし価値が高い二本松藩戒石銘を改めて思い起こして
います。
二本松市の市の木はサクラ、市の花はキク、市の鳥はウグイスだそう
です。例年開催される菊人形展は、日本三大菊人形展に数えられて
います。秋には、二本松市を訪れようと思っています。
丹羽高寛が作った藩風の余香も残っているかもしれません。
今から楽しみです。